本論文は、『とりかへばや物語』の「女の物語」としての独自性に注目して、その表現における平安末期の公家女性の立場を考察する。特に、作者未詳の本作品が婚姻・性愛、母性、出家・後宮での昇進をどのような視点から描いているのか、またその領域において女性の主体性は可能だと考えているのかを明らかにすることを目的とする。平安末期公家女性の社会的・経済的な立場が物語の中でどのように表象されているのかを明らかにするため、原文を歴史資料や歴史学的分析と比較検討する。第一章では、『とりかへばや物語』の全体像を把握するために、適切な歴史的時期に位置づけ、平安中期から末期にかけての文学伝統との関係を分析する。兄弟の「取り換え」やジェンダーコードの逆転、また「涙を押し拭ふ」といった動作を通して女主人公が特殊なジェンダー表現で描かれる。その「心強さ」は、平安末期の女性登場人物の系譜に連なりながらも、「源氏的」な受動性を超える新たな女性像を提示している。第二章では、平安末期から鎌倉初期にかけての婚姻制度・離婚規範を照らし合わせつつ、本物語に現れる男女関係を検討し、婿取婚から嫁取婚への展開を背景に女性登場人物の社会的な立場を明らかにする。さらに平安貴族社会の性愛観に関連づけ、特に男性の「つれづれ」や「色好み」の特徴と、それに対する女性の「恨み」や脆弱性から、作者が異性関係のあり方を疑問視していることが明らかになる。 第三章では、まず父系継承における後継者の確保の重要性や、それに伴う懐妊・出産の描写を考察する。『とりかへばや物語』は、妊娠する女性の身体的状態を詳細に描いて、出産死亡に関する不安と加持祈祷を語る。また本物語は、仏教に影響された「母子一体」のイデオロギーを問題化する。男女関係の孤独から逃れ、主体性を追求する女主人公が幼い息子を手放すという重大な決断は、過度な母性愛がもたらす束縛から自らを解き放つものとして、重要な役割を果たす。第四章では、さきに分析した婚姻・性愛・母性の領域のほかに、女性登場人物が切望する主体性を求めて向かう道、つまり出家・後宮での昇進を探る。尼という変成男子に通じる脱性化したジェンダー存在を得ることで、女性は一定の社会的安定を手に入れる。その目的を、女一宮は政治的および宗教的権力を行使する女院の職位を通して達成する。一方、関白の娘である女主人公は、宮廷の行政機構に参与する尚侍の役職から、后と国母という「上なき位」へ上り詰めることができる。以前の章で女性の置かれた状況に関する分析を踏まえて、平安末期の家父長制社会では女性が出家・後宮での昇進という形である程度の主体性を得ることができると作者が考えているように見える。ところが女性が不安定な生活から逃れるために『とりかへばや物語』が提示する解決法は、「答えにならない答え」に過ぎず、物語の幕切れはほろ苦いものとなっている。
Il presente elaborato analizza il Torikaebaya monogatari (‘Se potessi scambiarli!’), anonima opera giapponese del XII secolo incentrata sullo scambio di genere tra un fratello e una sorella. Attraverso tale espediente narrativo, l’autrice confronta l’esistenza maschile con quella femminile e colloca il vissuto della protagonista al centro delle vicende narrate. Conferendole una marcata autocoscienza, il testo solleva un’implicita critica alla libertà vincolata in cui le donne si muovevano. L’opera viene qui letta dunque come ‘racconto al femminile’ o onna no monogatari, cercando inoltre di comprendere se l’autrice riconosca alle sue protagoniste margini di autodeterminazione nella società dell’epoca. A tale fine, la rappresentazione letteraria viene confrontata con la documentazione storiografica sulla condizione femminile. Il primo capitolo è dedicato a un inquadramento dell’opera nel suo periodo storico; un’indagine dei riferimenti intertestuali e dei codici di genere permette di studiarne la natura di onna no monogatari. I successivi tre capitoli esaminano invece la raffigurazione nel testo dei principali ambiti in cui viveva la donna Heian, ossia il legame coniugale e i rapporti affettivi, la maternità, e la possibile affermazione concessa dal voto monastico e dall’ascesa a corte. Ne affiora uno sguardo autoriale disilluso sull’asimmetria tra incostanza maschile e vulnerabilità femminile, e un’interpretazione dell’affetto materno eccessivo come rischioso per l’indipendenza personale. Il testo ammette in ultimo alcuni spazi di emancipazione nella forma della rinuncia religiosa e della scalata sociale, difficili ma possibili a una donna del tempo. Il successo della protagonista viene definito dal suo ‘animo maschile’, oltre che dalla sua condizione privilegiata di membro dell’alta aristocrazia. L’opera articola dunque una «risposta che non è una risposta» alla condizione femminile dell’epoca, in quanto l’emancipazione che prospetta rimaneva a molte donne preclusa.
Il Torikaebaya monogatari come 'racconto al femminile'. Riflessioni sulla condizione della donna nel tardo periodo Heian
GERMINIANI, GRETA
2025/2026
Abstract
本論文は、『とりかへばや物語』の「女の物語」としての独自性に注目して、その表現における平安末期の公家女性の立場を考察する。特に、作者未詳の本作品が婚姻・性愛、母性、出家・後宮での昇進をどのような視点から描いているのか、またその領域において女性の主体性は可能だと考えているのかを明らかにすることを目的とする。平安末期公家女性の社会的・経済的な立場が物語の中でどのように表象されているのかを明らかにするため、原文を歴史資料や歴史学的分析と比較検討する。第一章では、『とりかへばや物語』の全体像を把握するために、適切な歴史的時期に位置づけ、平安中期から末期にかけての文学伝統との関係を分析する。兄弟の「取り換え」やジェンダーコードの逆転、また「涙を押し拭ふ」といった動作を通して女主人公が特殊なジェンダー表現で描かれる。その「心強さ」は、平安末期の女性登場人物の系譜に連なりながらも、「源氏的」な受動性を超える新たな女性像を提示している。第二章では、平安末期から鎌倉初期にかけての婚姻制度・離婚規範を照らし合わせつつ、本物語に現れる男女関係を検討し、婿取婚から嫁取婚への展開を背景に女性登場人物の社会的な立場を明らかにする。さらに平安貴族社会の性愛観に関連づけ、特に男性の「つれづれ」や「色好み」の特徴と、それに対する女性の「恨み」や脆弱性から、作者が異性関係のあり方を疑問視していることが明らかになる。 第三章では、まず父系継承における後継者の確保の重要性や、それに伴う懐妊・出産の描写を考察する。『とりかへばや物語』は、妊娠する女性の身体的状態を詳細に描いて、出産死亡に関する不安と加持祈祷を語る。また本物語は、仏教に影響された「母子一体」のイデオロギーを問題化する。男女関係の孤独から逃れ、主体性を追求する女主人公が幼い息子を手放すという重大な決断は、過度な母性愛がもたらす束縛から自らを解き放つものとして、重要な役割を果たす。第四章では、さきに分析した婚姻・性愛・母性の領域のほかに、女性登場人物が切望する主体性を求めて向かう道、つまり出家・後宮での昇進を探る。尼という変成男子に通じる脱性化したジェンダー存在を得ることで、女性は一定の社会的安定を手に入れる。その目的を、女一宮は政治的および宗教的権力を行使する女院の職位を通して達成する。一方、関白の娘である女主人公は、宮廷の行政機構に参与する尚侍の役職から、后と国母という「上なき位」へ上り詰めることができる。以前の章で女性の置かれた状況に関する分析を踏まえて、平安末期の家父長制社会では女性が出家・後宮での昇進という形である程度の主体性を得ることができると作者が考えているように見える。ところが女性が不安定な生活から逃れるために『とりかへばや物語』が提示する解決法は、「答えにならない答え」に過ぎず、物語の幕切れはほろ苦いものとなっている。| File | Dimensione | Formato | |
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https://hdl.handle.net/20.500.14247/29603